統一教会に関する最高裁判決
先日、統一教会に関する最高裁判決が話題になりました。
この裁判では、
「返還請求や不法行為を理由とする損害賠償請求など、裁判上・裁判外を含め一切行わない」
という内容の念書を書いており、この合意が有効かが争われていました。
不起訴合意の効力について
本件のように、契約書や示談書などで、当事者間で今後、「訴訟などの法的措置を取らない」と約束することを、法律業界では専門用語で「不起訴合意」と呼んだりしています。
この合意をしてしまうと、もう裁判を起こすことはできないのでしょうか。
逆の立場の場合も問題になります。
事件などの際に、しっかりと金銭賠償などで償った上でこういう合意を結んでもらっても、後から裁判を起こされてしまい負けてしまうことがあるのでしょうか。
原則:不起訴合意は、有効とされています。
当事者がお互い納得して約束すればそれは有効、というのが現代における原則です。
専門用語では「私的自治の原則」と呼びます。
成人が、しっかり自分の置かれた状況などを把握した上で、「それで良いです。」とお互いに納得すれば、約束の内容は有効であり、外部の第三者がとやかくいうことはできないし、裁判所などの公的機関も介入しない、ということです。
例外:無効になる場合もある
しかし、不起訴合意は憲法で保障された「裁判を受ける権利」を制限する側面もあります。
そのため、合意の効力については慎重に判断することが求められます。
合意が無効とされるケースもあります。例えば、以下の様なケースが考えられます。
- 充分な意思能力に疑問がある場合
- 公序良俗違反
- 権利範囲が不明確である場合
以下、順に解説します。
充分な意思能力に疑問がある場合
契約時に若年や高齢であったり、認知症の症状が出始めていた、など、しっかりと判断する能力があったか疑問がある場合には、その契約は無効となる可能性があります。
公序良俗違反
社会通念上、著しく不当な内容の合意は、公序良俗に反するため無効となります。
権利範囲が不明確である場合
合意の内容が曖昧で、具体的にどのような権利を放棄するのかが明確でない場合、不起訴合意は無効となる可能性があります。
今回の最高裁判決の意義
今回、最高裁判所は、旧統一教会の献金問題に関する訴訟において、信者が教団に多額の献金をした後、返金や賠償を求めない旨の念書を作成していたケースについて、念書の有効性についての判断基準を下記のとおり示しました。
「当事者の属性及び相互の関係、不起訴合意の経緯、趣旨及び目的、不起訴合意の対象となる権利又は法律関係の性質、当事者が被(こうむ)る不利益の程度その他諸般の事情を総合考慮して決すべきである」(最高裁2024.7.11判決)
その上で判決は、念書の作成に至る経緯、信者が高齢であったこと、後に認知症と診断されたことなどを考慮して、この念書は公序良俗に反し無効であると判断しました。
他の裁判例 退職時に交わした「訴訟しない」合意書を無効とした事例
他にも、不起訴合意の効力が争われた裁判例はいくつか存在します。
例えば、東京地裁2018年5月22日判決は、不起訴合意の対象範囲の明確性、内容の不公平性などを指摘して、不起訴合意の効力を否定しました。
1「合意書締結以前の事由に基づく訴訟手続きの一切についての不起訴を合意するものとされ、その対象となる権利又は法律関係の範囲が広範であって、具体的に特定されていないこと」
2「合意書締結当時(略)紛争は顕在化していたとはいえず(略)不起訴合意の対象となる権利ないし法律関係の範囲について協議等がなされた形跡は窺われないこと」
3「不起訴等合意条項は(略)被告(略)の用意した(略)合意書にあらかじめ印刷されていたものであるうえ、原告のみが不起訴を確約する片面的な内容になっていること」
に鑑みると、「本件訴えに係る権利ないし法律関係について、民事裁判手続による権利保護の利益を放棄したとまでは認めることはできない。」
(東京地裁2018年5月22日判決)
まとめ
不起訴合意は、原則として有効ですので、締結する場合には慎重に検討することが求められます。
ただし、「裁判を受ける権利」との関係で慎重に判断されるべきであり、場合によっては無効とされることがあります。
特に、一方的な不利益を被る内容の合意は、無効と判断される可能性があります。今回の最高裁判決により、その可能性はこれまでより高まったと言えると私は考えています。
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