退任する取締役に競業避止義務を課したい経営者必見!契約書の書き方からトラブル回避策まで

中小企業法務

池袋の弁護士、田村優介です!

退任する取締役に競業避止義務を課したいけど、どうすればいいの?法律って難しくてよくわからない…そんな悩みを抱える経営者の方、必見です!

この記事では、競業避止義務契約の目的・メリットから、契約書の書き方、トラブル事例と回避策まで、実務に役立つ情報をわかりやすく解説します。この記事を読めば、有効な競業避止義務契約を締結するための4つの要件(事業上の秘密保持の必要性、退任取締役への合理的な範囲の制限、相当の対価の支払い、期間の限定)が理解でき、実際に契約書を作成する際に必要な必須事項(禁止行為・地理的範囲・期間・対価・違反時のペナルティ)も明確になります。さらに、就業規則への規定や取締役会決議の必要性など、実務上の注意点もバッチリ!競業避止義務違反が発生した場合の対処法も学ぶことができるので、いざという時も安心です。退任取締役による競合を防ぎ、会社の大切な情報を守るために、ぜひこの記事を活用してください!

  1. 1. 退任する取締役に競業避止義務を課す目的とメリット
    1. 1.1 競業避止義務を課す目的
    2. 1.2 競業避止義務によるメリット
  2. 2. 競業避止義務契約の法的根拠と有効性の要件
    1. 2.1 競業避止義務と憲法22条(職業選択の自由)の関係
    2. 2.2 有効な競業避止義務契約の4つの要件
      1. 2.2.1 事業上の秘密保持の必要性
      2. 2.2.2 退任取締役への合理的な範囲の制限
      3. 2.2.3 相当の対価の支払い
      4. 2.2.4 期間の限定
  3. 3. 競業避止義務契約書に記載すべき必須事項
    1. 3.1 禁止行為の範囲
    2. 3.2 地理的範囲
    3. 3.3 期間
    4. 3.4 対価
    5. 3.5 違反時のペナルティ
  4. 4. 退任する取締役に競業避止義務を課す際の実務上の注意点
    1. 4.1 就業規則への規定
    2. 4.2 取締役会決議の必要性
    3. 4.3 退職金との調整
  5. 5. 競業避止義務違反が発生した場合の対処法
    1. 5.1 内容証明郵便による警告
    2. 5.2 仮処分申請
    3. 5.3 損害賠償請求訴訟
  6. 6. 競業避止義務に関するトラブル事例と回避策
    1. 6.1 事例1 範囲が広すぎる競業避止義務
      1. 6.1.1 回避策
    2. 6.2 事例2 対価が不十分な競業避止義務
      1. 6.2.1 回避策
    3. 6.3 事例3 期間が長すぎる競業避止義務
      1. 6.3.1 回避策
    4. 6.4 事例4 曖昧な禁止行為の範囲
      1. 6.4.1 回避策
  7. 7. 競業避止義務以外の情報保護対策
    1. 7.1 秘密保持契約の締結
      1. 7.1.1 秘密保持契約に含めるべき項目
    2. 7.2 社内情報管理体制の構築
      1. 7.2.1 物理的セキュリティ対策
      2. 7.2.2 ITシステムによる情報管理
  8. 8. まとめ
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1. 退任する取締役に競業避止義務を課す目的とメリット

退任する取締役に競業避止義務を課すことは、会社にとって重要な経営戦略の一つです。会社の大切な情報を守り、競争力を維持するために、競業避止義務は大きな役割を果たします。この章では、競業避止義務を課す目的とメリットを詳しく解説します。

1.1 競業避止義務を課す目的

競業避止義務を課す主な目的は、会社の機密情報やノウハウの流出を防ぎ、競争上の優位性を保つことです。取締役は、会社の経営に関わる重要な情報やノウハウにアクセスできる立場にあります。退任後、競合他社に転職したり、自ら競合する事業を立ち上げたりした場合、これらの情報が利用され、会社に大きな損害を与える可能性があります。競業避止義務を課すことで、このようなリスクを最小限に抑えることができます。

また、顧客関係の保護も重要な目的です。取締役は、顧客との関係構築に重要な役割を果たすことが多く、顧客に関する情報も豊富に持っています。退任後、競合他社でこれらの情報や関係を利用されると、顧客の流出につながり、会社の業績に悪影響を及ぼす可能性があります。競業避止義務によって、顧客関係を保護し、安定した事業運営を図ることができます。

さらに、会社のブランドイメージの保護も目的の一つです。取締役は、会社の顔として社外活動を行うこともあります。退任後、競合他社に移籍することで、会社のブランドイメージが毀損される可能性も考えられます。競業避止義務は、このようなリスクからも会社を守ります。

1.2 競業避止義務によるメリット

競業避止義務を適切に設定し運用することで、会社は以下のようなメリットを得ることができます。

メリット詳細
競争優位の確保機密情報やノウハウの流出を防ぎ、競合他社に対する優位性を維持・強化できます。
顧客基盤の安定化顧客の流出を防ぎ、安定した顧客基盤を維持することで、長期的な事業成長に貢献します。
ブランドイメージの保護ブランドイメージの毀損リスクを軽減し、企業価値を守ります。
優秀な人材の確保競業避止義務の存在は、優秀な人材の引き抜きリスクを低減し、優秀な人材を確保しやすくなります。
健全な競争環境の維持公正な競争を阻害する行為を防ぎ、健全な市場環境の維持に貢献します。

これらのメリットを最大限に享受するためには、競業避止義務の内容を適切に設定することが重要です。後述する章では、有効な競業避止義務契約の要件や注意点について詳しく解説します。

2. 競業避止義務契約の法的根拠と有効性の要件

退任する取締役に競業避止義務を課すことは、会社の重要な営業秘密やノウハウを守る上で非常に重要です。しかし、競業避止義務は、憲法で保障されている職業選択の自由を制限する側面もあるため、その法的根拠と有効性の要件を正しく理解しておく必要があります。

2.1 競業避止義務と憲法22条(職業選択の自由)の関係

憲法22条は、すべての国民に職業選択の自由を保障しています。競業避止義務は、この自由を制限する可能性があるため、その制限が合理的かつ必要最小限でなければなりません。公序良俗に反するような、不当に職業選択の自由を制限する競業避止義務は無効となります。

2.2 有効な競業避止義務契約の4つの要件

競業避止義務契約が有効となるためには、以下の4つの要件をすべて満たす必要があります。これらの要件を満たさない契約は無効となる可能性が高いため、契約書を作成する際には細心の注意が必要です。

2.2.1 事業上の秘密保持の必要性

競業避止義務を課すためには、会社に保護すべき事業上の秘密が存在することが必要です。単に退任取締役が競合他社で働くことを防ぎたいというだけでは不十分で、具体的な営業秘密やノウハウの存在を明らかにする必要があります。例えば、独自の技術、顧客リスト、販売ルートなどが該当します。秘密性の程度が高いほど、競業避止義務の必要性が認められやすくなります。

2.2.2 退任取締役への合理的な範囲の制限

競業避止義務の内容は、退任取締役の職務内容や責任範囲、会社の事業内容などを考慮して、合理的な範囲でなければなりません。禁止する業務の種類、地理的範囲、期間は、必要最小限に限定する必要があります。過度に広い範囲の制限は、無効と判断される可能性が高くなります。

2.2.3 相当の対価の支払い

退任取締役は、競業避止義務を負うことで、職業選択の自由を制限されます。そのため、会社は、その制限に見合う相当の対価を支払う必要があります。対価の額は、制限の範囲や期間、退任取締役の地位や給与などを考慮して決定されます。退職金とは別に支払われることが一般的です。対価が不十分な場合、競業避止義務は無効となる可能性があります。

2.2.4 期間の限定

競業避止義務の期間は、事業上の秘密の性質や退任取締役の職務内容などを考慮して、合理的な期間に限定する必要があります。無期限の競業避止義務は無効です。一般的には、1年から2年程度の期間が妥当とされていますが、事業の特性や秘密情報の価値によっては、より長い期間が認められる場合もあります

要件内容
事業上の秘密保持の必要性保護すべき具体的な営業秘密やノウハウが存在すること
退任取締役への合理的な範囲の制限禁止行為の範囲、地理的範囲、期間は必要最小限であること
相当の対価の支払い制限に見合う対価を支払うこと
期間の限定合理的な期間に限定すること

これらの4つの要件を総合的に判断し、競業避止義務の有効性が決定されます。契約書を作成する際には、これらの要件を満たすように十分に配慮し、必要に応じて弁護士などの専門家に相談することが重要です。

3. 競業避止義務契約書に記載すべき必須事項

競業避止義務契約書を作成する際には、後々のトラブルを避けるためにも、必要な事項を漏れなく記載することが重要です。具体的には、以下の5つの事項を必ず記載しましょう。

3.1 禁止行為の範囲

競業避止義務で禁止する行為の範囲を具体的に記載する必要があります。単に「競業行為を禁止する」と記載するだけでは、具体的にどのような行為が禁止されるのか不明確になり、後々トラブルに発展する可能性があります。禁止行為の範囲を明確にすることで、退任取締役も何をやってはいけないのか理解しやすくなり、不要なトラブルを未然に防ぐことができます。 例えば、「同業他社への就職」、「同業種の会社設立」、「同業他社への出資」などを具体的に記載しましょう。また、禁止行為の範囲が広すぎると、職業選択の自由を不当に制限していると判断される可能性があります。そのため、自社の事業内容や退任取締役の職務内容などを考慮し、必要最小限の範囲に限定することが重要です。

3.2 地理的範囲

競業避止義務の地理的な範囲を明確に記載する必要があります。全国規模で事業を展開している企業であれば、全国を範囲とすることも考えられますが、特定の地域で事業を展開している企業であれば、その地域に限定することが適切です。地理的範囲が広すぎると、職業選択の自由を不当に制限していると判断される可能性があります。 例えば、「東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県」のように具体的に記載しましょう。自社の事業拠点や顧客基盤などを考慮し、必要最小限の範囲に限定することが重要です。

3.3 期間

競業避止義務の期間を明確に記載する必要があります。期間が長すぎると、職業選択の自由を不当に制限していると判断される可能性があります。一般的には、退任取締役の職務内容や会社の事業内容などを考慮し、1年から2年程度が妥当とされています。 例えば、「退任後2年間」のように具体的に記載しましょう。期間の設定は、会社の規模や事業内容、退任取締役の職務内容、秘密情報の重要度などを総合的に考慮して決定する必要があります。

3.4 対価

競業避止義務を課す代わりに、退任取締役に支払う対価を明確に記載する必要があります。対価が不十分であると、競業避止義務が無効と判断される可能性があります。対価の額は、退任取締役の職務内容や会社の事業内容などを考慮し、相当額を支払う必要があります。 例えば、「退職金とは別に100万円を支払う」のように具体的に記載しましょう。対価は金銭である必要はなく、株式やその他の財産でも構いません。重要なのは、退任取締役が競業避止義務を負うことによる不利益を補償するのに十分な額であることです。

3.5 違反時のペナルティ

競業避止義務に違反した場合のペナルティを明確に記載する必要があります。ペナルティを記載することで、退任取締役に競業避止義務を遵守させる効果を高めることができます。ペナルティとしては、違約金の支払いや損害賠償請求などが考えられます。 例えば、「違反した場合、1000万円の違約金を支払うものとする」のように具体的に記載しましょう。ただし、ペナルティが過大であると、公序良俗に反すると判断される可能性がありますので、注意が必要です。

項目記載例注意点
禁止行為の範囲同業他社への就職、同業種の会社設立、同業他社への出資自社の事業内容や退任取締役の職務内容などを考慮し、必要最小限の範囲に限定する
地理的範囲東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県自社の事業拠点や顧客基盤などを考慮し、必要最小限の範囲に限定する
期間退任後2年間一般的には、1年から2年程度が妥当とされる
対価退職金とは別に100万円を支払う退任取締役が競業避止義務を負うことによる不利益を補償するのに十分な額とする
違反時のペナルティ違反した場合、1000万円の違約金を支払うものとするペナルティが過大であると、公序良俗に反すると判断される可能性がある

これらの必須事項を明確に記載することで、競業避止義務契約の有効性を高め、後々のトラブルを未然に防ぐことができます。契約書の作成にあたっては、専門家である弁護士に相談することをお勧めします。

4. 退任する取締役に競業避止義務を課す際の実務上の注意点

退任する取締役に競業避止義務を課す際には、契約書の作成だけでなく、就業規則への規定や取締役会決議など、実務上の手続きも重要です。これらの手続きを適切に行わないと、せっかくの競業避止義務契約が無効になってしまう可能性があります。しっかりと確認していきましょう。

4.1 就業規則への規定

競業避止義務を就業規則に盛り込むことで、会社全体として競業避止に関するルールを明確化できます。また、取締役だけでなく、従業員にも適用できるルールとして整備することで、会社全体の知的財産や営業秘密の保護を強化できます。就業規則に規定する場合、労働基準監督署への届出が必要となる点に注意が必要です。届出を怠ると、就業規則自体が無効になる可能性があります。

4.2 取締役会決議の必要性

取締役の退任に伴う競業避止義務契約は、重要な契約事項であるため、取締役会決議を経る必要があります。決議の内容には、競業避止義務の範囲、期間、対価、違反時のペナルティなどを明確に記載する必要があります。また、決議録は適切に保管し、後々の紛争に備えることが重要です。

4.3 退職金との調整

競業避止義務の対価は、退職金とは別に支払うことが一般的です。退職金と競業避止義務の対価を明確に区別することで、後々のトラブルを避けることができます。対価の額は、競業避止義務の範囲や期間、取締役の職務内容などを考慮して決定します。退職金の一部として支払う場合には、就業規則や個別の契約書で明確に定める必要があります。

項目注意点
就業規則競業避止義務に関する規定を設け、労働基準監督署への届出を行う。
取締役会決議競業避止義務契約の内容を明確に決議し、決議録を適切に保管する。
退職金競業避止義務の対価と退職金を明確に区別し、支払方法を定める。
契約書の締結時期在職中に締結することも可能だが、退任時に締結することが一般的。退任時に締結する場合、退任条件として競業避止義務を課すことを明確に伝える必要がある。
弁護士への相談競業避止義務契約の作成や実務上の手続きについては、弁護士に相談することを推奨する。専門家のアドバイスを受けることで、より確実で有効な競業避止義務を課すことができる。

上記に加えて、契約書の締結時期や弁護士への相談についても考慮が必要です。これらの注意点を押さえることで、退任する取締役に有効な競業避止義務を課し、会社の重要な情報を守ることができます。スムーズな会社運営のためにも、これらの実務上の手続きをしっかりと行いましょう。

5. 競業避止義務違反が発生した場合の対処法

せっかく締結した競業避止義務契約も、違反されてしまっては意味がありません。違反が発生した場合、迅速かつ適切な対応が必要です。まずは違反の事実確認を行い、その内容・程度に応じて段階的に対応していくことが重要です。具体的には、以下の3つの段階を想定しておきましょう。

5.1 内容証明郵便による警告

競業避止義務違反が疑われる場合、まずは内容証明郵便で警告を発します。内容証明郵便とは、いつ、どのような内容の文書を誰に送ったのかを郵便局が証明してくれる制度です。これにより、相手方に違反行為を認識させ、自主的な是正を促す効果が期待できます。内容証明郵便には、以下の内容を記載しましょう。

  • 競業避止義務契約の存在
  • 違反行為の具体的な内容
  • 競業避止義務違反をやめるよう求める旨
  • 是正されない場合の法的措置(仮処分申請、損害賠償請求訴訟など)を示唆する旨

内容証明郵便を送付することで、後の法的措置における証拠としても役立ちます。また、この段階で相手方が違反行為を是正すれば、訴訟などの大きな紛争に発展するのを防ぐことができます。

5.2 仮処分申請

内容証明郵便による警告でも違反行為が是正されない場合、仮処分申請を検討します。仮処分とは、訴訟が確定するまでの間、一時的に権利関係を定める制度です。競業避止義務違反の場合、相手方の競業行為を一時的に禁止する仮処分命令を求めることができます。仮処分は、迅速な対応が必要な場合に有効な手段です。例えば、相手方が自社の重要な顧客情報を持ち出して競合他社に転職し、営業活動を開始しているようなケースでは、顧客情報の流出や取引関係の悪化を防ぐために、迅速な対応が求められます。仮処分申請を行うためには、相手方の競業避止義務違反の事実を裏付ける証拠が必要となります。そのため、日頃から証拠保全を意識しておくことが重要です。

5.3 損害賠償請求訴訟

競業避止義務違反によって会社が損害を被った場合、損害賠償請求訴訟を提起することができます。損害賠償請求訴訟では、相手方の違反行為と損害との因果関係を立証する必要があります。損害額の算定は複雑な場合もあるため、弁護士などの専門家の協力を得ることが重要です。損害賠償の範囲は、逸失利益だけでなく、違反行為によって生じた調査費用や弁護士費用なども含まれる場合があります。

対応内容メリットデメリット
内容証明郵便違反行為の是正を求める警告簡易で費用も比較的安価法的拘束力がない
仮処分申請一時的に競業行為を禁止迅速な対応が可能証拠が必要、費用がかかる
損害賠償請求訴訟損害の賠償を求める損害を回復できる可能性がある時間と費用がかかる、立証責任が重い

これらの対処法は、状況に応じて単独で、あるいは組み合わせて用いられます。いずれの場合も、弁護士等の専門家に相談し、適切な対応をとるようにしましょう。早期に専門家に相談することで、紛争を早期に解決し、被害を最小限に抑えることができる可能性が高まります。また、証拠の収集・保全は非常に重要です。違反の事実を証明できるメール、契約書、就業規則などは必ず保管しておきましょう。証拠が不十分だと、仮処分申請や損害賠償請求訴訟が認められない可能性があります。

6. 競業避止義務に関するトラブル事例と回避策

競業避止義務を設定する際には、トラブル発生のリスクを最小限に抑えることが重要です。具体的なトラブル事例と、その回避策を見ていきましょう。

6.1 事例1 範囲が広すぎる競業避止義務

A社で営業部長を務めていたBさんは、退職時に競業避止義務を課されました。契約期間は2年間、範囲は「A社が現在または将来手がける可能性のあるすべての事業」とされていました。Bさんは、A社とは全く異なる分野で起業しようとしましたが、この契約のために断念せざるを得ませんでした。裁判の結果、競業避止義務の範囲は広すぎると判断され、無効となりました。

6.1.1 回避策

競業避止義務の範囲は、退職前の職務内容や会社の事業内容に照らして、合理的な範囲に限定する必要があります。例えば、Bさんが営業部長であった場合、営業活動に関する競業避止義務は有効と考えられますが、A社が将来参入する可能性のある全く異なる分野での起業を制限するのは、行き過ぎと言えるでしょう。具体的な事業内容、役職、顧客情報へのアクセス権などを考慮し、必要最小限の範囲に絞り込むことが重要です。

6.2 事例2 対価が不十分な競業避止義務

C社で取締役を務めていたDさんは、退職時に競業避止義務を課されました。契約期間は3年間、範囲はC社の主要取引先との取引でしたが、対価はわずか10万円でした。Dさんは、生活に困窮し、競業避止義務に違反してしまいました。裁判の結果、対価が不十分であると判断され、競業避止義務は無効となりました。

6.2.1 回避策

競業避止義務を課す場合には、制限を受ける側の不利益に見合うだけの相当な対価を支払う必要があります。対価の額は、制限の期間、範囲、退職前の役職や報酬などを考慮して決定されます。金額の目安として、退職前の年収の30%~50%程度が妥当とされるケースが多いです。明確な算定根拠を示し、納得感のある金額を設定することが重要です。

6.3 事例3 期間が長すぎる競業避止義務

E社で技術部長を務めていたFさんは、退職時に競業避止義務を課されました。契約期間は5年間、範囲はE社と同じ業界での就業でした。Fさんは、5年間も業界から離れることは不可能と考え、競業避止義務に違反してしまいました。裁判の結果、期間が長すぎると判断され、競業避止義務は無効となりました。

6.3.1 回避策

競業避止義務の期間は、事業上の秘密保持の必要性や、退職者の再就職の機会などを考慮して、合理的な期間に限定する必要があります。技術革新のスピードが速い業界では、1~2年程度が妥当とされるケースが多い一方、変化の少ない業界では、3~5年程度が認められる場合もあります。業界の特性や、保護すべき情報の性質などを考慮し、適切な期間を設定することが重要です。

6.4 事例4 曖昧な禁止行為の範囲

G社で取締役を務めていたHさんは、退職時に「G社と競合する事業への従事」を禁止する競業避止義務を課されました。しかし、「競合する事業」の定義が曖昧であったため、Hさんは、コンサルティング会社に転職しましたが、G社と間接的に競合する業務に携わってしまいました。裁判の結果、禁止行為の範囲が曖昧であると判断され、競業避止義務は無効となりました。

6.4.1 回避策

項目具体例
禁止行為同業他社への就職、同業他社への出資、同業コンサルタント業務
地理的範囲東京都、大阪府、愛知県
対象となる企業株式会社〇〇、株式会社△△

禁止行為の範囲は、具体的に記載することが重要です。「競合する事業」のような曖昧な表現ではなく、具体的な企業名や事業内容、役職などを明記することで、誤解や紛争を防ぐことができます。上記の表のように整理すると、より明確になります。

これらの事例を参考に、自社に合った競業避止義務契約を作成し、トラブルを未然に防ぎましょう。弁護士等の専門家に相談することも有効な手段です。

7. 競業避止義務以外の情報保護対策

競業避止義務契約は強力な手段ですが、退任取締役による情報漏洩のリスクを完全に排除できるわけではありません。情報漏洩対策は多重的に行うことが重要です。ここでは、競業避止義務以外の情報保護対策について解説します。

7.1 秘密保持契約の締結

秘密保持契約(NDA)は、在職中だけでなく退職後も会社の機密情報を保護するために重要な契約です。競業避止義務契約とは異なり、競合他社への就職の制限はなく、情報保護に特化した内容となっています。秘密保持契約を締結することで、従業員・役員に対して守秘義務の重要性を改めて認識させ、情報漏洩に対する抑止力となります。

7.1.1 秘密保持契約に含めるべき項目

  • 秘密情報の定義
  • 秘密情報の取扱方法
  • 秘密保持義務の範囲
  • 秘密保持義務の期間
  • 違反時のペナルティ

秘密保持契約は、取締役だけでなく、従業員全員と締結することが望ましいです。また、契約書は具体的に、どのような情報が秘密情報に該当するのかを明確に定義することが重要です。あいまいな表現は避け、具体的な例を挙げることで、後にトラブルになった際に証拠として役立ちます。

7.2 社内情報管理体制の構築

強固な社内情報管理体制を構築することも、情報漏洩対策として非常に重要です。物理的なセキュリティ対策と、ITシステムによる情報管理の両面から対策を行いましょう。

7.2.1 物理的セキュリティ対策

対策内容
入退室管理の徹底ICカードを用いた入退室管理システムを導入し、部外者の侵入を防ぎます。また、従業員の出入りについても記録を残し、追跡できるようにします。
重要書類の施錠管理顧客情報や技術情報などの重要書類は、鍵付きのキャビネットに保管し、アクセス権限を持つ担当者のみが閲覧できるようにします。
持ち出し制限USBメモリや外付けハードディスクなどの外部記憶媒体の使用を制限し、社内情報の持ち出しを防ぎます。クラウドサービスの利用についても、アクセス権限を適切に設定し、情報漏洩のリスクを最小限に抑えます。

7.2.2 ITシステムによる情報管理

対策内容
アクセス権限の設定従業員の職務に応じて、アクセスできる情報に制限をかけます。例えば、営業担当者は技術情報にアクセスできないように設定します。
ログ管理誰がいつどの情報にアクセスしたかを記録し、不正アクセスを早期に発見できるようにします。
セキュリティソフトの導入ウイルス対策ソフトやファイアウォールなどを導入し、外部からの攻撃や情報漏洩を防ぎます。定期的なアップデートを行い、最新のセキュリティ対策を維持することが重要です。
デバイス管理会社が支給するパソコンやスマートフォンには、MDM(モバイルデバイス管理)を導入し、セキュリティポリシーを適用します。紛失時のデータ消去機能なども活用し、情報漏洩のリスクを軽減します。

これらの対策を総合的に行うことで、退任取締役による情報漏洩リスクを大幅に低減できます。情報漏洩対策は、会社の信用を守る上で非常に重要です。適切な対策を講じ、企業価値を守りましょう

8. まとめ

退任する取締役に競業避止義務を課すことは、会社の重要な営業秘密やノウハウを守る上で非常に有効な手段です。しかし、憲法で保障された職業選択の自由との兼ね合いから、競業避止義務契約の有効性は厳格に判断されます。この記事では、有効な競業避止義務契約を締結するための4つの要件、すなわち「事業上の秘密保持の必要性」「退任取締役への合理的な範囲の制限」「相当の対価の支払い」「期間の限定」を詳しく解説しました。これらの要件を満たさない場合、契約は無効と判断される可能性があります。

契約書には、禁止行為の範囲、地理的範囲、期間、対価、違反時のペナルティなど、必須事項を明確に記載する必要があります。また、就業規則への規定や取締役会決議といった実務上の注意点も忘れてはいけません。退職金との調整も重要なポイントです。競業避止義務違反が発生した場合には、内容証明郵便による警告、仮処分申請、損害賠償請求訴訟といった法的手段を講じることができます。

契約書作成にあたっては、実際に起きたトラブル事例を参考に、自社にとって最適な内容にすることが重要です。範囲が広すぎたり、対価が不十分だったり、期間が長すぎたりすると、無効と判断されるリスクが高まります。競業避止義務以外にも、秘密保持契約の締結や社内情報管理体制の構築など、多角的な情報保護対策を講じることで、より強固な情報管理体制を築くことができます。退任取締役による情報漏洩リスクを最小限に抑え、会社の将来を守りましょう。

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