池袋の弁護士、田村優介です!今日のご相談は「競業避止義務」です。
こんなご相談がしばしばあります。
大学時代の先輩が立ち上げた会社で一緒に働いて欲しいと言われ、取締役に就任してほしいというので応じました。しかし色々なことで意見が対立してしまい、自分は退社して別の会社を立ち上げて同じ事業を始めようと思い、辞めたいと伝えました。すると先輩から、「競業避止義務」などと書かれた「合意書」を示され、サインしないとダメだ、と強く言われています。これはサインしないとダメなのでしょうか。
そもそも、取締役の競業避止義務とはなにか
取締役って何?
会社の取締役は、株主総会の決議で選任されて、その会社の経営を担当します。
つまり、株主から会社の経営を任された(法律用語で「委任」といいます)「経営のプロ」です。
取締役は、会社の持主である株主からの信頼を受けて仕事を任されているわけですから、会社のため忠実にその職務を行わなければならないとされます(これを「忠実義務」といいます。なかなかストレートな、法律用語界ではわかりやすいほうのネーミングですね。)。
この「忠実義務」から生じる義務の一つが「競業避止義務」というものです。
競業避止義務って何?
会社法には、取締役は、自己又は第三者のために株式会社の事業の部類に属する取引をしようとするときには、株主総会において、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければならない、ということが規定されています(356条)。
取締役はその会社の経営を任されているわけですから、企業の秘密情報、重要なノウハウ、などなどの、その会社だけがもっている様々な重要情報にアクセスできます。
取締役がこの立場を利用すれば、会社の利益を損ねて、自分や自分の近しい人の利益を上げることができてしまうので、そういう行為は株主の信頼に反することでダメだよ、という規定です。
これが「競業避止義務」と呼ばれるものです。
何が「競業取引」に当たるの?
それでは、「競業取引」とはなんでしょうか。
私なりに噛み砕いていうと、
「市場」と「商品」が会社の事業と重複している取引
と言えます。
有名な裁判例に、パン屋さんの事件があります。
関東で製パン業を営んでいた会社の代表取締役が、新たに関西地方でも会社を設立した上で同会社の代表取締役として製パン業を営んだ場合、地域が関東と関西とで異なるにしても、かねてより同代表取締役が関西進出を計画しておりその市場調査を具体的に進めていたなどの事情があったことなどから、当該会社の「営業の部類に属する」取引を行ったことに他ならない、としたものです。
(東京地裁昭和56年3月26日判決)
「パン」という「商品」は同じで、「場所」すなわち「市場」は関東と関西という違いがあった、という事件です。
この事件では、関西進出の具体的な計画が進んでいたことから、関西であっても市場の重複はあるとして、競業にあたるとされたのです。
取締役を退任した場合に競業避止義務はある?
取締役の競業避止義務は、株主と取締役の約束、という性質から導かれるものですから、
「現に取締役に就いているさなかだけにある義務」です。
退任後には義務はもうなく、競業は原則として自由、と言われています。憲法上、職業選択の自由も認められているのですからそのように考えるべきです。
なお、かなり特別な事情があるケースで、退任取締役の責任を認めた裁判例もないわけではありませんが、例外と考えてください(事前に従業員の引き抜きを水面化で進めていた、とか、退任後に極めて大量の従業員を引き抜いた、などのケースです。)
競業避止義務の合意は応じる必要がある?
上記のとおり、退任後の競業は原則自由です。
そのために、会社側から、取締役就任の時点であらかじめ退任後の競業禁止を定めた契約を締結してもらったり、これから退任する取締役に誓約書・合意書などの名前の書面にサインを求めることがよく行われます。
この誓約書・合意書は、作成された場合には原則として有効となります。
ただし、約束の内容が合理性を欠き、職業選択の自由を不当に侵害するものであると判断されると、公序良俗(民法90条)に反し、無効になるとされています。
競業禁止の期間が長すぎる、対象地域が広すぎる、という場合は無効になる可能性が高いと考えられます。この判断は最終的には裁判所が行いますが、どのような判断がされるかについては、個別の事案次第のところがあります。もしこの問題に直面している方は、必ず弁護士に相談した方がよいと思われます。
そして、本日のテーマ、競業避止義務の合意書にサインしなければダメなの?という質問については、「する必要はありません!」が回答です。
以前のブログでも書いていますが、約束を結んでもらうようお願い、交渉するのは全く自由ですが、他方、それに応じるのも応じないのも全く自由です。
もちろん、これまでの人間関係などからサインを断るのが難しい、などの状況に追い込まれてしまう人が多いことも重々わかっています。
サインに戸惑う書類が出されたら、「弁護士にも相談してみます」「家族に相談してみます」などの言葉で、その場では交渉を一旦終わらせる、テクニックを覚えておいてください。
競業避止義務の問題でお困りの方、ご相談ください!
取締役と会社の間のトラブルについては、↓こちらの記事もぜひご覧ください↓
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東京・池袋 社長の夢を叶えるコーチ弁護士・田村優介(第二東京弁護士会・城北法律事務所)
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